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咳(せき)について

まず咳でお悩みの方へ

当院は咳の原因を突き止め、症状を改善させることを専門的に行っている医療機関です。喘息の専門治療も行っております。しかし原因がなかなかわからず改善しづらい方もおられると思います。咳止めに過剰な期待をしないことと、原因によって対処方法や治療が異なることをご理解頂くことが重要です。咳が改善しなければ早めに外来を受診していただくことをおすすめします。

以下で、なぜ咳が出るのか、どんな咳に注意すべきか、最近の咳の傾向と治療法について、解説します。

1. 咳の役割と分類

咳は、気道に溜まった痰や、間違って吸い込んだ異物・病原体などを体外に排出するために重要な防御反応です 。

問題となるのは、この咳が長期間続く場合です。 咳が続くと「生活の質」、いわゆるQOLが著しく低下します。「咳き込んで眠れない」といった身体的な問題だけでなく、「会議中に咳が止まらない」「電車の中で周りの目が気になる」といった精神的・社会的な負担もあります 。

咳は期間で分類します。 3週間未満で治まるものを「急性咳嗽」、これは主にいわゆる風邪、ウイルス性などの感染症などです。 3週間から8週間続くものを「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」、 そして8週間(約2ヶ月)以上続く咳を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼び、これは感染症とは異なる原因も探る必要があります。

日本において、この「慢性咳嗽」に悩む方は、推定で250万人から350万人と報告されています。
「かぜが長引いているのだろう」と軽く考えて放置してしまうと、病気によっては悪化する可能性もあるので、原因を見極めてそれに応じた治療をする必要があります。

長引く咳の原因になる代表的な疾患を、以下にリストアップします。

  • 呼吸器
    • 喘息/咳喘息
    • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
    • 慢性気管支炎
    • アトピー咳嗽
    • 気管支拡張症
    • その他
  • 耳鼻咽喉
    • アレルギー性鼻炎
    • 慢性副鼻腔炎
    • 喉頭アレルギー
    • など
  • 消化器
    • 胃食道逆流症(逆流性食道炎)
  • 感染症
    • コロナ
    • インフルエンザ
    • マイコプラズマ
    • 百日咳
    • 非結核性抗酸菌症/肺MAC症
    • 肺結核
    • など
  • 神経
    • 咳過敏症(気道の知覚過敏)
  • その他重大
    • 肺がん
    • 間質性肺炎
    • その他

コロナやインフルエンザでなく、胸部レントゲンの異常がなく、一般的な喘息(ぜんそく)でもない場合の長引くせきの原因として考えられる病気のうち一般的なものは、「咳喘息(せきぜんそく)」、「アトピー咳嗽」、「副鼻腔気管支症候群」、マイコプラズマ感染症などに引き続く「感染後咳嗽(かぜ症候群後遷延性咳嗽)」などがあり、中でも多いのが「せきぜんそく」です。
また一般の方が思いつきづらい原因のひとつに、胃酸の食道への逆流が咳の神経などを刺激する胃食道逆流症(逆流性食道炎)もあります。健常人でも胃酸の逆流は1日50回程度、特に食事の前後や横になることで頻繁に起き得ます(当院では胃カメラで診断できます)。

2.危険な咳

知っておくべき危険な咳

咳の期間についてお話ししましたが、期間に関わらず「待ってはいけない咳」があります。 これを我々は「Red Flagsレッドフラッグス=危険信号)」と呼んでいます。

上のスライドに挙げた5つの項目が重要です。

「血痰」、つまり咳に血が混じる場合。これは肺がんや結核、気管支拡張症などのサインかもしれません。

「45歳以上でタバコを吸われる方」の新しい咳や、咳の質の変化、声がれは、肺がんや喉頭がんの可能性も考える必要があります。

「呼吸困難」、特に安静にしている時や夜間に息苦しくなる咳は、心不全や重い肺炎の可能性があります。

「全身症状」として、咳だけでなく、だらだら続く微熱や、急な体重減少、足のむくみなどを伴う場合も注意が必要です。

「嚥下障害」で、食べ物や飲み物がうまく飲み込めない、むせる、そして肺炎を繰り返す場合は誤嚥(ごえん)が咳の原因になっている可能性があります。

これらの「危険信号」が一つでも当てはまる場合は、様子を見ずに、すぐに呼吸器専門医を受診してください。

3.痰の重要性

咳の診断において、医師が重視するのが「痰(たん)」の有無です。

皆さんの咳は、痰の絡まない「コンコン」という乾いた咳(乾性咳嗽)ですか? それとも、痰が絡む「ゴホンゴホン」という湿った咳(湿性咳嗽)でしょうか?

これで方針が大きく変わります。 乾いた咳は、咳の反射そのものを抑える治療を考えます。 一方、湿った咳は、痰を出しやすくする治療が中心です。 注意点としては痰が絡む咳を市販の強力な咳止め薬(中枢性鎮咳薬)で止めてしまうと、痰が気管支から喀出しづらくなり問題となるということがあります。

痰の色もヒントになります。 黄色や緑色の膿性痰は細菌感染を疑うサインです。ただ、急性気管支炎のようにこじらせた風邪で痰が黄色くなってもウイルスが原因のことも多く、抗菌薬いわゆる抗生物質の乱用も耐性菌を増やすだけになってしまうため、処方には気を使っています。

近年、ガイドラインでも記載されていますが、気道粘液栓という概念があります。 これは、重症の喘息やCOPDの患者さんの気管支に、CTで見ると痰の詰まりが見える、というもので、なかなか症状が良くならない原因の一つではないかとも言われています。

我々呼吸器専門外来では、こうした痰の所見に加え、レントゲン・CT、肺機能検査、そしてFeNO(fractional exhaled nitric oxide)(フィーノ)という、吐いた息で気道のアレルギー性炎症が分かる検査などを組み合わせて、咳の原因を正確に診断していきます。

4. 対策と治療

大原則は、原因に応じた特異的な治療です。喘息、咳喘息なら気道の炎症をとる吸入ステロイドを含む吸入薬をメインとします(発作時にはもちろんステロイド内服や点滴ももちいます。)。胃食道逆流症(逆流性食道炎)なら胃酸を抑える薬を用います。インフルエンザ・コロナはそれぞれ抗ウイルス薬、百日咳・マイコプラズマ・その他の細菌感染なら抗菌薬、といった具合です。喘息に対しては、既存の薬で改善が乏しい場合には、生物学的製剤も用います。アトピー咳嗽・花粉症のようなアレルギーに関連する咳は、抗ヒスタミン薬や、点鼻薬も用いますが、舌下免疫療法も行うことができます。
他でおさまらない方には、咳過敏症症候群(CHS)のような方にはP2X3受容体拮抗薬などの薬も用います。
また、痰の多い気管支拡張症(BE)という病気の方には、マクロライド少量長期療法が有効です。これは抗菌薬を少量で長く飲む治療ですが、菌を殺すというより、気道の過剰な炎症を抑える効果が期待でき、ガイドラインでも推奨されています。

まとめ

長引く咳は、必ず原因があります。あきらめずに、ぜひ専門医と一緒にその原因を探り、改善を目指しましょう。

参考:

咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2025年版