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肥満を合併した睡眠時無呼吸症候群にゼップバウンドが適応拡大?最新の知見をわかりやすく解説

睡眠時無呼吸症候群への適応が追加

肥満症治療薬として使用されてきたゼップバウンド®(一般名:チルゼパチド)について、

2026年5月18日、日本でも新たに

中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群〈SAS〉。ただしBMI 27 kg/m²以上の場合に限る

という効能が正式に追加されました。

米国では2024年12月、FDAが肥満を伴う中等症~重症SASにゼップバウンドを承認していました。これはSASに対して承認された初の薬物治療です。

この承認は、睡眠時無呼吸症候群の治療が気道をCPAPで広げるだけでなく、SASを悪化させる肥満そのものを治療するという方向へ広がってきたことを象徴する出来事です。


ゼップバウンドで睡眠時無呼吸はどのくらい改善した?

今回の承認の中心的な根拠となったのが、国際共同第III相試験SURMOUNT-OSAです。

この研究では、肥満を伴う中等症~重症SAS患者を、

  • CPAPを使用していない患者
  • CPAPを継続使用している患者

の2つの試験に分け、チルゼパチドとプラセボを52週間比較しました。

日本の電子添文に掲載された解析では、52週後のAHI(無呼吸低呼吸指数)の改善について、プラセボとの差は、

  • CPAP非使用群:−22.5回/時
  • CPAP使用群:−24.4回/時

でした。

同時に体重は、

  • CPAP非使用群:約18.7%減
  • CPAP使用群:約20.1%減

と大きく減少しました。

AHIが20回/時以上改善するというのはかなり大きな変化です。さらに、夜間低酸素、血圧、炎症マーカー、睡眠時の症状なども改善していました。


なぜ痩せると睡眠時無呼吸が改善するのか

肥満はSASの重要な原因・増悪因子です。

体重が増えると頸部や上気道周囲、舌などにも脂肪が蓄積しやすくなり、睡眠中に上気道が閉塞しやすくなります。また腹部肥満は肺活量を低下させ、上気道を開存させる力を弱める方向にも働きます。

ゼップバウンドはGIPおよびGLP-1受容体に作用し、食欲やエネルギー摂取を抑えることで体重を減少させます。

追加解析でも、体重減少が大きい患者ほどAHI改善も大きいことが確認されました。治療効果もCPAPのようにその日から現れるのではなく、減量が進むにつれて徐々に大きくなっています。

一方、チルゼパチドには減量とは独立したSASへの直接作用があるとまでは現時点では証明されていません。この点については今後の研究が必要です。


心血管・代謝への影響

2026年にNature Medicineから報告されたSURMOUNT-OSAの二次解析では、チルゼパチド治療による体重減少とSAS改善が、インスリン抵抗性、中性脂肪、CRP、収縮期血圧などの心代謝リスク因子の改善と関連していることが示されました。

ただし、SURMOUNT-OSAは心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡を評価するために設計された試験ではありません。

したがって現時点で、ゼップバウンドでSASを治療すれば心筋梗塞や脳卒中が減るとまで断定することはできません。


ではCPAPは不要になる?

ここは誤解されやすいところだと思いますが、SURMOUNT-OSAはゼップバウンド vs CPAPを比較した研究ではありません。

CPAPを使用していない患者ではゼップバウンドとプラセボを比較し、CPAP使用患者ではCPAPを続けたままゼップバウンドとプラセボを比較しました。

したがって、ゼップバウンドの方がCPAPより優れているというエビデンスはありません。

また、ゼップバウンドを使用した患者の何%がCPAPを中止できたのか、CPAP圧をどの程度下げられたのかについても、SURMOUNT-OSAでは検証されていません。

米国睡眠医学会(AASM)も、SASには肥満だけでなく顎・顔面骨格や上気道の構造などさまざまな原因があり、チルゼパチドがすべてのSASを治療するわけではないと注意を促しています。CPAP、マウスピース、外科治療などとの併用が必要と思われます。

重症SAS患者がゼップバウンドを開始したからといって、すぐにCPAPを中止できるわけではありません。


日本ではBMI 27以上なら誰でも使えるわけではない

薬事承認上は、

  • BMI 27 kg/m²以上
  • 中等症以上のSAS

が基本条件です。

しかし、実際の保険診療には厚生労働省の最適使用推進ガイドラインが適用されます。

原則として、

  • PSGによるAHI 15回/時以上、または簡易検査で一定以上の重症度
  • 食事・運動療法を行っても十分な減量が得られない
  • SAS診療について一定の経験を持つ専門医等による管理
  • 常勤管理栄養士による栄養指導
  • 定期的な体重およびSAS重症度の再評価
  • 52週以内に投与終了する計画

などが求められています。

さらにBMI 27以上30未満については、厚労省も特に慎重な適応判断を求めています。したがって、肥満気味で睡眠時無呼吸があるからゼップバウンドを処方するというほど単純な制度ではありません。

さらに保険診療として処方が可能な施設としてのハードルは高く、クリニックではその施設認定を取るのは困難と思われます。


日本人への効果についてはまだ慎重に見る必要がある

SURMOUNT-OSAの被験者は、平均BMIが約39 kg/m²、平均AHIが約50回/時という、かなり高度の肥満・重症SAS患者が中心でした。

さらに全469例中、日本人はわずか20例でした。

したがって、日本で比較的多いBMI 27~30前後のSAS患者に、試験全体と同じほど大きなAHI低下が起こるかについては、まだ十分なデータがありません。

これは今回の承認を否定する材料ではありませんが、日本の実臨床データの蓄積が待たれます。


副作用は?

SASに対する日本での用法では2.5 mg/週から開始し、原則4週間ごとに2.5 mgずつ増量して15 mg/週を維持量とします。忍容性に応じ10~15 mgで調整します。

SURMOUNT-OSAで多かった副作用は消化器症状で、悪心、下痢、嘔吐、便秘などが中心でした。例えばCPAP非使用試験では悪心23.7%、下痢21.9%、嘔吐17.5%、便秘14.9%でした。

まれではありますが、急性膵炎、胆嚢・胆管系疾患、イレウス、重篤なアレルギー反応などにも注意が必要です。


まだ分かっていない大きな問題:やめた後どうなる?

SURMOUNT-OSAの治療期間は52週間です。

日本の最適使用推進ガイドラインでも、SAS目的では52週以内に投与終了する計画を立てることが求められています。

一方、SASについて、

  • 52週を超えて投与した場合の長期効果
  • 投与を中止した後、体重やAHIがどう推移するか
  • CPAPをどの程度減量・中止できるか

については十分なデータがありません。

肥満もSASも基本的には慢性疾患です。

そのため1年間治療して中止した後にどれだけ効果を維持できるのかは、日本で使用が広がるにつれて非常に重要な課題になるでしょう。


SAS治療の可能性

今回の承認で最も重要なのは、単にSASの薬が1種類増えたことではありません。

従来、SAS治療はCPAPなどによって睡眠中に閉じる気道を物理的に開くことが中心でした。

チルゼパチドは、それとは異なり、肥満を伴うSAS患者において肥満という上流の病態そのものに介入する治療です。

2026年の米国糖尿病学会(ADA)のStandards of Careでも、過体重・肥満を伴う中等症~重症SASに対して、SAS改善効果が実証された肥満治療薬を考慮することが推奨されるようになっています。

したがって今後は、CPAPでその夜の気道閉塞を治療しながら、減量治療によってSASを起こしにくい身体へ変えていくという二方向からの治療が重要になります。


まとめ

ゼップバウンドは2026年5月18日、日本でもBMI 27 kg/m²以上の中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に正式に適応追加されました。

SURMOUNT-OSAでは、体重減少とともに、AHIをプラセボより約20回/時改善するという効果が示されています。

一方で、

  • CPAPとの直接比較試験ではない
  • CPAPを中止できることは証明されていない
  • 日本人被験者は20例のみ
  • BMI 27~30程度へのエビデンスは限定的
  • SASに対する52週超のデータが乏しい
  • 投与終了後のSAS再燃について十分なデータがない
  • 心血管イベント減少までは証明されていない

という限界もあります。

したがって現時点で最も適切な理解は、CPAPに代わる薬が登場したのではなく、肥満を原因の一つとするSASに対して、原因側へ介入できる治療選択肢が加わったというものです。

これは肥満を伴うSASの治療戦略を大きく変える可能性がありますが、今後、日本人での実臨床データ、長期予後、中止後の再発率、CPAPとの最適な併用・離脱方法を明らかにしていく必要がありそうです。


内科・呼吸器内科へのご相談

睡眠の質が気になる方、肥満や高血圧にお悩みの方は、呼吸器内科または内科にお気軽にご相談ください。問診・検査を通じて、お一人おひとりに合った対応をご提案します。

監修: 院長 平田 慎治(日本呼吸器学会 呼吸器専門医・日本内科学会 総合内科専門医・肺がんCT検診認定医師)

最終更新: 2026 年 8 月 30 日

本ページの情報は一般的な医学情報であり、個別の診断・治療を保証するものではありません。症状の判断は必ず医師の診察を受けてください。治療内容(吸入薬・在宅酸素療法・薬物療法など)は呼吸機能や全身状態をもとに医師が判断します。自己判断による薬剤の中断・変更は危険ですので、必ず医師にご相談ください。