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ネフィー®とは?新しいアドレナリン点鼻スプレー

ネフィー®とは?

アナフィラキシーという、呼吸困難や血圧低下、意識消失などを起こし、命に関わることもある重いアレルギー反応をおこした場合の治療についてのお話です。

この命に関わるようなアレルギーを起こした場合の治療薬としてアドレナリンがあります。

アドレナリンの注射は、自己注射用のペン製剤としてエピペン®が本邦では用いられています。アナフィラキシーのときに迅速に注射することで命の危険を下げることができます。しかし自己注射に対する不安が妨げになることも問題となっていました。


ネフィー®(neffy)というのは、アドレナリンを鼻から噴霧して投与できる新しい点鼻スプレー製剤です。針を使わずにアナフィラキシーの治療ができるというメリットがあります。

ネフィー®は、アドレナリン点鼻投与でも、従来の筋肉注射と同程度の血中アドレナリン濃度や血圧上昇が得られることが示されたため、アナフィラキシーの緊急治療薬として承認されました。​注射ではなく点鼻のスプレーという形態によって、患者さんやご家族が実際にアドレナリンを使いやすくなることが期待されています(1)。

ネフィー®の利点

1. 針を使わない点鼻スプレー
ネフィー最大の特徴は、針を使わず鼻に噴霧するだけでアドレナリンを投与できる点です。

注射への恐怖心が強い方、また保護者の方が子どもさんに注射することに心理的抵抗がある場合でも、スプレーであれば使用のハードルが下がりやすくなります。

また、周囲の大人(学校の先生や同伴者など)が患者さんに投与する場合も、太ももに針を刺す注射より鼻にスプレーするほうが行動に移しやすいと考えられます。

2. 抗アレルギー効果は自己注射と同等
ネフィーの有効成分は従来の自己注射製剤と同じアドレナリンです。アドレナリン受容体を刺激して、血圧を維持し、気道を拡張させ、粘膜浮腫を改善させるなどの効果を発揮します。

研究では、ネフィー点鼻後の血中アドレナリン濃度や血圧・脈拍の変化が、筋肉注射製剤の投与と同じような範囲に入っており、緊急時に必要な効果を得られることが示されています(2)。

    臨床試験でも、多くの症例でネフィー単回投与により症状の改善が得られ、追加の筋注アドレナリンが不要であったことが報告されています(3)。

    このようなデータから、適切な患者に使えば自己注射にも引け目を取らない治療選択肢になり得ると評価されています。

    3. 実際に早めに使われやすい可能性
    アナフィラキシーでは症状が強くなってからアドレナリンを使うのでは遅く、息苦しさや血圧低下がみられた時点で早期に投与することが予後改善につながります。

    しかし現実には、アドレナリン自己注射が処方されていても、発作時に実際には使われていない例が少なくないようです。

      針を刺す恐怖や使い方への不安が妨げになっている場合には、簡便なスプレーであるネフィーによりためらわず早めに使用できる可能性があります。

      結果として、アナフィラキシー時に救急搬送前のアドレナリン投与率を高めることが期待できます。

      4. 携帯性と扱いやすさ
      ネフィーは小型のデバイスで、持ち運びやすく、キャップを外して片側の鼻に噴霧するという比較的単純な操作で投与できます。

      太ももの太い筋肉にまっすぐ強く押し当てる自己注射に比べ、服の上から注射する必要もなく、衣服の脱ぎ着や体位変換に時間を取られにくい点も利点です。

        ネフィー®の注意点

        1. 鼻の状態によって吸収が左右されやすい
        ネフィーは鼻粘膜からアドレナリンを吸収させる薬剤のため、鼻ポリープ、重度のアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻手術後などでは吸収が低下するリスクがあります。

        このような場合には、筋肉注射のほうがより確実に薬剤が全身に行き渡ると考えられます。患者さんごとに適切な投与方法を検討する必要があります。

          また、アナフィラキシーによる鼻粘膜の浮腫により吸収率が変動するかもしれないという点も評価する必要はありそうです。

          2. 鼻の局所副作用が一定程度みられる
          ネフィーの主な副作用として、鼻の不快感、くしゃみ、鼻咽頭の刺激感、鼻出血、頭痛などの局所症状が報告されています。

          多くは軽度かつ一過性ですが、もともと鼻炎が強い患者さんにとっては症状が煩わしく感じられる可能性があります。

            エピペン®のようなアドレナリン自己注射でも共通ですが、アドレナリンの副作用として、動悸、手指のふるえ、不安感、頭痛、血圧上昇なども起こり得ます。これらは生命を守るための緊急投与であることから、アナフィラキシー時においてはリスクよりベネフィットが大きく許容範囲であることが多いです。

            3. 長期的なデータは自己注射より少ない
            ネフィー®は新しい薬なので、アドレナリン自己注射に比べると、使用経験やデータはまだ限られています。

            専門家としては、アドレナリン自己注射の実績は尊重すべきで、その上でネフィー®は補完的な選択肢として位置づける、というスタンスになります(4)。

              今後、実際の使用状況や有効性・安全性の追跡調査が進むことで、より明確な位置づけが固まっていくと考えられます。

              4. 原則1本で十分と限らないこと
              ネフィー®は1回噴霧で十分な効果が得られるよう設計されていますが、アナフィラキシーの重症度や体格、鼻の状態によっては2回目の投与が必要になる場合があります。

              そのため、2本以上を携帯し、改善が不十分な場合は2回目を投与することが想定されています。

                これは自己注射製剤でも同様に複数本携帯が推奨される場合があります。リスクのある方は、1本あれば安心と過信しないほうがよいかもしれません。

                自己注射との比較

                項目ネフィー®(アドレナリン点鼻スプレー)アドレナリン自己注射(エピペン®など)
                投与方法鼻粘膜にスプレーする。太ももの筋肉に注射する。服の上から投与可能。
                使用の心理的ハードル注射への抵抗感があっても、本人や家族および周囲が投与しやすい。心理的負担から、ためらわれる場合がある。
                効果発現と薬理作用約1分で血圧・脈拍上昇などの薬理効果が現れ、筋注と同程度の範囲の血中濃度が得られる。左記のとおり。長年の使用実績があり、ガイドラインで第一選択とされる標準治療。
                影響を受けやすい要因鼻ポリープ、重度鼻炎、鼻手術後などで吸収が低下する可能性。皮下投与になると吸収が遅れるが、適切な筋注であれば安定した吸収が得られる。
                主な副作用右記の全身症状に加え、鼻の違和感、くしゃみ、鼻出血など局所症状も伴う。動悸、震え、頭痛、高血圧など全身症状が主体。
                想定される適した患者あくまで補完的。自己注射の使用に強い抵抗がある方。重度の鼻疾患がない方。現時点では第一選択薬。自己注射の手技習得が可能で、確実な筋注が期待できる方。


                どういった方につかうか

                ネフィーは、アナフィラキシー歴がありアドレナリン携帯が必要であるが注射に対するハードルが高いといった患者さんに対して有用と考えます。​


                具体的には、以下のようなケースが想定されます。

                ・小児の食物アレルギーなどで、子どもに注射を打つことに強い抵抗を感じている保護者の方

                ・これまで自己注射製剤を処方されていても、発作時に怖くて打てなかった経験がある方

                ・手指の巧緻性や筋力の問題で、自己注射の正しい操作に不安がある方

                一方で、重度の鼻炎や鼻ポリープなどの鼻からの吸収が不安定になり得る患者さんでは、従来どおり筋肉注射製剤を優先した方がよい場合もあるかもしれません。(※ 実際には鼻炎があっても薬物血中濃度の差はなかったというデータはあるようなので(2)、鼻炎で一律に投与できないというわけではないようです。)

                当院では、アレルギーの原因、生活スタイル、鼻や心血管の状態などを総合的に評価し、エピペン®やネフィー®、それらの併用を含め、患者さんごとに最適な選択肢を一緒に検討していきます。

                まとめ

                アナフィラキシー治療において重要なアドレナリンですが、ネフィーはその投与手段の一つとして、針を使わない点鼻スプレーという新しい選択肢により、これまで注射のアドレナリンが使えなかった方々の救命率を改善できる可能性があります(5)。

                一方で、鼻の状態による吸収の変動や長期的な実臨床データの蓄積不足など、現時点での限界もあるため、自己注射に完全に置き換わる薬ではなく、患者さんの背景に応じて使い分けるべき薬と考えられます(4)。

                アナフィラキシー歴のある方、アドレナリン自己注射の使用に不安がある方は、診察の際にネフィー®も含めた治療選択肢についてご相談ください。

                補足: アドレナリン自己注射についてエピペン®などと記載しましたが、本邦ではエピペン®のみです。一方で海外ではエピペン®以外にもアドレナリン自己注射デバイスは開発されており、体重15kg未満の乳幼児でも用いることができる0.1mg製剤のあるAuvi‑Q®、エピペン®の15mmの針では皮下注射になり吸収が遅くなる可能性のあるような肥満症の方でも使えるように23mmの針の製剤があるEmerade®などもあるようです。これらは日本では用いることができず、発売予定もなさそうです。いまのところ日本では、エピペン®、ネフィー®の2種類がアドレナリン自己投与デバイスとして用いることができるという状況です。​

                参考文献

                1. Crescioli G, et al. Epinephrine nasal spray for the treatment of anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol. 2025.

                2. Ellis AK, et al. Development of neffy, an epinephrine nasal spray. Ann Allergy Asthma Immunol. 2024.

                3. Ebisawa M, et al. Epinephrine nasal spray improves allergic symptoms in severe allergic reactions. Allergol Int. 2025.

                4. Leeds S. Intranasal epinephrine: where might it fit in guidelines for managing anaphylaxis. Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2025.

                5. Greenhawt M, et al. Pharmacokinetic and pharmacodynamic profile of epinephrine nasal spray versus injection. J Allergy Clin Immunol. 2024.