百日咳
百日咳について
流行が拡大している「百日咳(ひゃくにちぜき)」について、感染動向や治療・予防のポイントをまとめます。
百日咳とは?
百日咳は「百日咳菌(Bordetella pertussis)」による急性呼吸器感染症です。特徴は、激しい咳の発作と、その後にヒューという息を吸い込む音(whoop)です。咳は数週間から数か月続くこともあります。
感染の流れと症状
- 潜伏期間:7~10日
- 初期(カタル期):風邪のような症状(咳、鼻水、微熱)
- 痙咳期:発作的な咳、息を吸うときの笛のような音、咳込みによる嘔吐や顔面紅潮
- 回復期:徐々に咳が落ち着くが、長引くことも
成人やワクチン接種済みの方は、典型的な症状が目立たず、長引く咳だけが続くことも多く、気づかないうちに周囲へ感染を広げてしまうことがあります。
近年の感染動向
日本では、定期予防接種(DPT-IPVワクチンなど)により百日咳の発生は大きく減少していました。しかし、ワクチンによる免疫は接種後3~4年で低下し始め、学童期や思春期、さらには大人でも再感染が増えています。
- 2022年:499件
- 2023年:1,009件
- 2024年:4,054件
- 2025年(4月第2週まで):4,100件(前年をすでに上回るペース)
コロナ禍のマスク・行動制限で一時的に感染者が激減しましたが、2023年以降、社会活動の再開とともに再び流行が拡大。特に10代以下の若年層や、ワクチン免疫が低下した成人の感染が目立っています。
治療と耐性菌の問題
百日咳の治療は、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が第一選択ですが、近年はこれらに耐性を持つ「マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)」の国内報告が増加しています。
- 2024年以降、複数の都道府県でMRBPが検出
- 治療には代替薬(ST合剤など)の使用が検討されるが、乳児や妊婦には使用できない場合もあり、今後の治療戦略が課題となっている
予防の最前線 ― ワクチンと追加接種の重要性
日本では、乳児期から5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)などの定期接種が推奨されていますが、ワクチンによる免疫は年齢とともに低下します。
- 幼少期のワクチン接種後、3年で抗体陽性率は30%まで低下
- 11~12歳では多くの子が免疫を失っていると考えられる
そのため、小学校高学年や思春期、成人への追加接種(トリビックなど三種混合ワクチン)が推奨されています。特に、乳児と接する家族や医療従事者は追加接種を検討しましょう。
まとめ ― いま百日咳を正しく知り、守るべき人を守る
- 百日咳は子どもだけでなく大人もかかる感染症
- 2024年以降、患者数が急増し、耐性菌の出現も問題に
- 乳児は重症化リスクが高いため、周囲の大人のワクチン追加接種が重要
- 咳が長引く場合は、早めに医療機関を受診しましょう
百日咳は「知って、予防して、広げない」ことが大切です。ご家族やご自身のワクチン歴を確認し、必要に応じて追加接種をご検討ください。
ご不明な点は、当院までお気軽にご相談ください。
【参考】
- 厚生労働省
- 国立感染症研究所
- 日本小児科学会
- 最新の感染症動向調査